『放浪者メルモス』の作者について(2)マイノリティーとして
『メルモス』の作者マチューリンは、アイルランドでプロテスタントの牧師をしていた人物です。祖先はユグノーで、迫害を逃れてこの地へ渡って来たのでした。アイルランドは現在も独立問題などで揺れていますが、そういう地でプロテスタントの牧師をするというのは、決して楽ではなかったでしょう。
不幸を反復的に描く作家と言えば、母親からのシビアな虐待を経験したサドを先ず思い浮かべますが、マチューリンもきっと心的外傷体験があったのではないかと想像します。最近フロイトの『文化への不満』を読んでいて、似ているところがあると思いました。homo homini lupus(人は他者に対し狼である)とフロイトは記しています。ユダヤ人への迫害を目の当たりにしてのことです。フロイトがタナトスと呼んだ、他者に対する純然たる破壊衝動、それをマチューリンも感じたことがあったのではないか、そんな気がします。まあでも、妄想はこれくらいにしておきます。
この話は、物語のクライマックスの一晩に何があったかが全く書かれていません。そこで何が起こったかは、読者によって全然とらえ方が違うと思います。そのことについてもいずれ書きたいのですが、ネタバレになるので全部訳し終えてからですね。この話長いので2年ほどかかると思いますけど頑張ります♪