hanekakusiのブログ

『猫とかわうそ』http://hanekakusi.web.fc2.com製作日記です。読書の感想も書いています。

黄金の壺

くるみ割り人形』で有名なホフマンの作品です。彼の作品は、雰囲気がどこか小さい子がよく出まかせにする作り話みたいです。それがいつしか、現実に取って代わってしまいます。

『黄金の壺』は、ある純粋な青年と、緑色の蛇との不思議な恋物語です。ここに書かれているのは、文筆にいそしむ者の理想郷です。あの青い書斎、うちのアパートの壁紙も青くしたくなりました。あんなところで仕事をしてみたい。

現実不適応な夢想家のことを、こんなに好意的に書いてくれたことには慰められます。もし緑色の蛇ゼルペンティーナがいたら、私も恐らく見えてしまう類いの人間だからです。(でもそれで人生得したことは一度もないし、自分を恥じることしかないですが)この作品を発表した当時、ホフマンも色々あって社会の隅っこに追いやられていたそうで、自分を慰める思いもあったのではないでしょうか。しかし普段の彼は音楽家や公務員として、実生活もちゃんと送れていた人でした。この物語でも、実利的に生きているヴェロニカたちもちゃんと幸せにしてあげてますし、そのへんの折り合いが良かったのでしょう。

私は、この物語はとても魅力的だと思うのですが、この話のアトランティスにはどこか不信感があります。ここが本当のクリスタルの牢獄かもしれないと。実は『くるみ割り人形』のマジパン城も、砂糖漬けの城に閉じ込められたような気がしてしまいます。どこか、世界が閉じているんです。「青い花」を探しに行くのも危険とはいえ、人生本気でマジパン城を探し求めたら、恐らくニートになるだけじゃないかと思います。もともとロマン主義は、もっと広い世界や遠い境地を探し求めていたのではないでしょうか。