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hanekakusiのブログ

『猫とかわうそ』http://hanekakusi.web.fc2.com製作日記です。読書の感想も書いています。

スコット『アイヴァンホー』

スコットはマチューリンの才能を見出した人物なので、読んでおきたいと思いました。『アイヴァンホー』は、第三次十字軍の頃のイングランドを舞台にした騎士物語です。『バートラム』と同じ頃、1819年に発表されました。ドラクロワの『レベッカの略奪』はこの物語をモチーフにしています。ドストエフスキーの『白夜』では、インテリゲンチャが思い人に『アイヴァンホー』を貸しています。

さて私は本を読む時、文学史上の意味よりも、作品が作者の人生に対して持つ意味の方に関心があります。私は文学を学んだこともないですし、作品の鑑賞の仕方は通常とは違うかもしれません。

『アイヴァンホー』は至極大ざっぱに言うと、迫害を受ける者が迫害者と戦う話です。大きく分けて、迫害者であるノルマン人、迫害されるサクソン人、更に迫害されるユダヤ人が出て来ます。ヒーローはアイヴァンホー、リチャード、ロビン・フッドと、何と3人も登場します。主要な敵も3人です。ヒロインも、私は3人いると思います。ロウィーナ、レベッカ、それとウルリカです。ウルリカについては違うと言われるかもしれませんが。

こういう物語は、英雄が誰を助け、誰を殺し、誰を犠牲にするかというところが重要だと思います。例えば『神曲』でも、嫌いな人ばかり地獄に落としていると言われはしますが、ダンテが誰を地獄に選び、誰を天国に選ぶかという取捨選択は彼の生き方を決める上で重要ではないでしょうか。『アイヴァンホー』でも、英雄たちの活躍により残虐な迫害者たちは殺されるか追放されます。サクソン人はアイヴァンホーの婚礼によりめでたく地位を取り戻します。ロウィーナは幸福になります。すべてはあるべき姿に戻って行きます。でも、ユダヤ女のレベッカイングランドを去って行きます。

この物語で一番不気味なのはウルリカですが、彼女も元は姫です。しかし奴隷となり、救いようもないほどねじくれています。彼女に最も近しいはずのセドリックも、奴隷になるくらいなら死ねばよかったと彼女を拒絶します。そして彼女は自分の復讐を遂げて死んで行きます。彼女はサクソンにとって恥であり、結局栄誉は取り戻しませんでした。彼女の復讐は危険でした。アイヴァンホーとレベッカも炎に巻き込まれて死にかねなかったのですから。ウルリカはもう救えない状態であり、セドリックのように切り捨てたのは正解かも知れません。しかし彼女がかつてレベッカの何倍も美しいという姫君だったことも事実です。

サクソン人たちは迫害される者ですが、しかし自分たちより地位の低いユダヤ人を迫害しています。レベッカは王族のロウィーナよりも気高い女性です。彼女にしかできない医術によって、アイヴァンホーもロビン・フッドも助けました。しかし命を救われたアイヴァンホーでさえ、レベッカユダヤ人であるために彼女に冷たい視線を向けます。まだ、サラディンと組んで彼女を女王にしようと妄想するテンプル騎士ボア・ギルメールの方が、彼女の価値をわかっているのです。結局アイヴァンホーの心は動かないまま、レベッカは迫害を逃れて去って行きます。物語としては彼女が去るのは感動の結末かもしれませんが、大きな損失であることは間違いないでしょう。英雄たちはイングランドに彼女の居場所をつくれなかったのでしょうか。また、彼女の父アイザックは大量の財産を持っています。それもイングランドからなくなってしまったわけです。財産というのは物語では、単なる金品以上の意味を持ちます。作者にとっては大損失です。

ウルリカやレベッカを助けられないにせよ、英雄たちは最も卑しい存在である彼女たちを、軽蔑し迫害してはならなかったのではないでしょうか。心の中で最も価値があり美しいものは、しばしば最も卑しく汚辱にまみれた場所にあるものですから。