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hanekakusiのブログ

『猫とかわうそ』http://hanekakusi.web.fc2.com製作日記です。読書の感想も書いています。

『フーコーの振り子』

ウンベルト・エーコは、存命の作家の中ではいちばん好きです。以前『完全言語の探求』を読んでとても感動しました。今作は娯楽小説で、ヤコブ・ベーメに似た名前の同僚が、テンプル騎士団を名乗る者たちに拉致されるところから話が始まります。ちなみに主人公のカゾホンは、イザーク・カゾホンから来ているのでしょう。ヘルメス文書批判をした人物です。読んでも読んでも根拠の怪しいオカルト談義が延々とつづくので、真面目な読者が信じちゃったらどうするんだろう、と思いながら読み進めました。作者の意図に気付いたのは、中盤になってやっとでした。主人公たちは怪しいオカルトに浸りながら、自らそれを生み出すという過ちを犯すのです。薔薇十字団をでっち上げた大学生のように。

人間誰しも、人生の意味や、世界の意図に興味を持つ事はあるでしょう。そのうちの何人かは、宗教、神秘主義、オカルトという迷路に入り込むことになります。エーコだってもともとは、これだけの作品を書けるほどにエン・ソフの探求にのめり込んで様々な本を読み漁ったのではないでしょうか。物事の間の類似性を探し求め、一なるものに至りたいと考えたことでしょう。かく言う私自身も、神秘主義に関してはかなり読んでます。そこに何か隠された真理があるのではないかと期待したからです。だけど結論を言うと、そんなことは「時間の無駄」ですね。

オカルトに興味があるなら、クロウリースウェーデンボルグを最初に読む事はすすめません。ショーレムエリアーデ、フランセス・イエイツ(これに関してはW.Bイエイツではない)など、信頼できる学者の著作を読むのがいいでしょう。神との対話や神秘体験を自らしてみたいなら、心理学の著作を読まれた方がいいですね。安全に瞑想する方法は、現代では宗教家よりカウンセラーの方が詳しいようです。

オカルトを勉強された方は分かると思いますが、神秘主義者の書いた書物には、普通は大したことは書かれていません。そこで何か重大な秘密だから明かせないのだろうかと思い、さらに突き詰めて行くのですが、結局は何もないのです。空虚です。秘密にしているのは大事なものを隠しているのではなく、中身が空っぽだからなのです。しかし果たしてテムラーの濫用でDNA配列が入れ替わるでしょうか。私はひとつの嘘の神話を書いたとして、主人公たちには罪はないのではないかと思います。彼らに罪があったら、『ムー』編集員はどうなるのですか。空虚をいくらかき回しても空虚です。それが罪になるでしょうか。

人間は何か妄信に縋らなくては生きられないような弱いものではない。否、とそれを拒むことができる。しかしそれは、ニヒリズムに陥ることではありません。フーコーの振り子は、遥かな宇宙の一点に確実に据え付けられているのです。主人公が救われたのは、リアの賢明さのおかげでしょう。神秘とは、本来書く事も語る事もできないのです。それは日々の生活で生きていくものなのではないでしょうか。