hanekakusiのブログ

『猫とかわうそ』http://hanekakusi.web.fc2.com製作日記です。読書の感想も書いています。

サド『ジュスチーヌ』

サドというのは、最も誤解されている作家の一人だと思います。作品よりも名前の方が有名というのもあります。中には彼をジル・ド・レ並の猟奇犯と思っている人もいるようですが、実際は人生の大半を牢獄や精神病院で過ごしたので、犯罪を犯すにも無理な状況でした。医師ピネルによる精神病院の患者解放というのがありましたが、そこの病院にいたそうです。私は最初、軟禁状態というのも落ち着いて創作に専念できる環境で良かったのではないかと能天気な事を考えていましたが、『ソドムの120日』などを読むとかなり精神的に追い詰められているのが伝わって来ます。今回私は『ジュスチーヌ』を訳しますが、作品としては『ジュリエット』の方が出来自体いいと思います。自由な時に書いた数少ない作品ですし、澁澤氏の名訳があります。

そもそもサドが何故投獄されたか、あまり知られていないことと思います。サドには母親が二人いましたが、どちらの母親にも恵まれませんでした。一人目の母親は、信仰を理由に彼を厳しく折檻したそうです。そして二人目の母親が、国王に直訴してサドをバスチーユに入れることになります。彼が義妹と駆け落ちしようとしたのが原因でした。この母親たちのせいで、サドは女性と母性を根本から憎むことになったようです。

その後も、ジャコバン派の恐怖政治に反対して投獄されてもいます。偽善だと言う人もいますが、私はそうではないと思います。彼は巧妙な理論の裏に隠された暴力の本質を見抜いていたのではないでしょうか。実際サドがどれだけ異常な人物だったか今となってはわかりませんが、私は彼は変態である前に作家であったと思います。本物の変態なら、こんな話は書かずに不言実行してるでしょう。

サドといいマチューリンといい、文章が回りくどい上に際限なく似たような不幸を反復するので、まともな人は恐らく途中で読むのが嫌になります。次々登場する変態おじさんに、お腹いっぱいです。結末までたどり着けるのは、よほどの読書好きだけでしょう。多分現代では作家になれないでしょうね。だけど途中で出てくる変態修道院の章は完成度が高いですし、ここだけ読んでもいいのではないかと思います。

『ジュスチーヌ』と『メルモス』だけでは訳していて荒みそうなので、途中他の作品も休憩に入れながらゆっくり取り組むつもりです。