hanekakusiのブログ

『猫とかわうそ』http://hanekakusi.web.fc2.com製作日記です。読書の感想も書いています。

『ジャングルブック』

19世紀イギリスの作家キプリングの作品です。ジャングルでオオカミに育てられた少年モーグリの冒険と成長を描いています。

予め書いておきますが、私は正直キプリングはあまり好きになれないところがあります。やはりこの作品が、イギリスによる植民地支配を正当化しているところは否めません。当時の倫理観としては、この本を読んだ子どもたちが立派な軍人なり、プランテーション経営者なり、東インド会社社員なりになって大英帝国の国土を広げることが理想だったのでしょうけど、今はそうではありません。モーグリが自分を追い出したインド人の集落をゾウに襲わせて壊滅させる話とか、愚かな原住民は滅ぼしても構わないと言っているようにも受け取れます。他にも「ジャングルを統治できるのは白人しかいない」とか「白人は人間を罠にかけることはない」とか、どの口が言うかという気もします。ジャングルの主となったモーグリは他の動物たちにやりたい放題です。「強い者には従え」という台詞もはっきり出て来ます。そういう時代の作品だという事を配慮しなくてはなりませんが、キプリングを読むのと同じくらい多くの人がサドを読んでくれることを私は願います。

作品中に「ジャングルの掟」という言葉が良く出て来ますが、その割には動物たちの生態の事はあまり気にしていないようです。実際にはオオカミの子をクロヒョウやクマが面倒を見ることはありませんし、ニシキヘビに「礼儀正しい」と褒められることもないでしょう。クマのバルー先生はモーグリに鉄拳制裁をしますが、クマに殴られたら普通人間は死にます。作中の動物社会は、現実のジャングルというより作者の思う理想郷のようです。人間社会から爪弾きにされた社会不適合者とも言えるモーグリは、この理想郷の王となり、人間を超越した恵み手となって人間社会に戻って来ます。

しかし色々言っても、やはりモーグリは魅力的ですね。ジャングルを知り尽くし、鹿よりも早く駆け、オオカミを使役し、トラとも正面から戦える少年です。ジャングルのどんな動物だって、モーグリに見つめられると恐怖に目を逸らさずにはいられません。彼は人類の始祖アダムにも例えられています。彼はジャングルの主で、あらゆる動物の兄弟です。ディズニー映画では原作の帝国主義的な面もなくなり、自然と人間の対立という構図になっています。モーグリもあまり特別な子どもではなくなっているようです。確かに、自然を統治するのが人間の役割だと考える人は現代ではあまりいないでしょうし、むしろ自然の破壊者とみなされがちです。しかし人間が自然の敵ではなく、自然の一員としての重大な役割を持つと信じていた頃を思い出すのも悪くはない気はします。人間は、他のどんな動物よりも強く気高いモーグリのようにもなれるのだと忘れないで欲しいものです。