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hanekakusiのブログ

『猫とかわうそ』http://hanekakusi.web.fc2.com製作日記です。読書の感想も書いています。

『王書(シャー・ナーメ)』

10世紀に書かれたイランの英雄叙事詩です。原著は50代の王に渡り記述した大作らしいですが、日本語に翻訳されているのは一部分だけです。私は東洋文庫のを読みました。古来の伝承を集めたものみたいで、11世紀には『ルバイヤート』が書かれている事を思うとかなり内容的に素朴な印象を受けました。似ているのは日本の『古事記』だと思います。立ち位置的にも多分近いです。イラン人の民族意識の拠り所みたいな感じです。イランの軍歌には『シャー・ナーメ』由来のものが多いそうです。イラン人の愛国心を高揚させるとか。この話ではイラン人は善に属し、アフラ=マズダの側にいます。それに対しトルコ人は悪しきアーリマンの権化です。そこで英雄たちは善と悪の戦いを繰り広げるわけです。

私が読んだのは、主に英雄ロスタムにまつわる物語です。この人は生まれた時から1歳児くらいのサイズで、ラオウみたいにデカくなって黒王号のような馬に乗っていました。ムチャクチャ強くて築いた屍の山は月まで届いたとか。こえー。ちなみに竜退治もしています。この最強の勇士ロスタムなのですが、栄光の最中にイランに侵攻して来たソホラーブを、息子とは知らずに戦って殺してしまいます。英雄が年若い息子を殺す話は世界中にありはしますが、しかしこの話は息子の存在を忘れていたクー・フーリンとは違い、ロスタムも我が子を気にかけ何度も相手が息子でないか確認しています。ソホラーブの方も父親に会いたがっていて必死にさがしているのに、目の前の敵が父だとは最期まで気付かない。このあり得ないほどのすれ違いに、読む者は否応なしに神意とか宿命とかいうものを感じさせられます。この息子を迫害して殺してしまう逆オイディプス現象は、本書に一貫して起こるテーマです。ロスタムは更に、王に嫌われた無垢な王子も殺さねばならない事になり、次第に命運を失って死を迎えます。

言うまでもなく、息子は自分の後を担う存在ですが、同時に自分の地位を脅かす存在でもあります。『金枝篇』の ように老齢の者が若者に殺されて代替わりするのではなく、老齢の者が若者の芽を摘み取って、それによって子孫は途絶え自分も殺してしまうというのは皮肉な結末です。この「子殺し」のテーマがどれだけイラン文化に普遍的かはわからないですが、そう言えばキュロス大王も親に殺されかけてましたね。しかし、この息子を持つ父親のジレンマは恐らく世界共通のテーマなのでしょう。