hanekakusiのブログ

『猫とかわうそ』http://hanekakusi.web.fc2.com製作日記です。読書の感想も書いています。

ネルヴァル『暁の女王と精霊の王の物語』

シバの女王がソロモン王に会いに行って知恵を試す話がありますが、それをモチーフにしています。しかし旧約聖書とはかなり違った話になっています。オカルトです。読み手を選びます。私は多分、常人よりムー的な怪しい本は読んでるので、この本がただ個人的な思いつきを並べたトンデモ本ではないという事はわかりますし、神秘主義的な著作でここまで上質なものは稀だと思います。本当に、この手の作品は殆ど本物には出くわしません。これと比べたら、スウェーデンボルグクロウリーも全然大した事ないですよ。

ヘッセの『デミアン』に、グノーシスの神アプラクサスが出てきましたし、カインの印は強者の証だみたいな事が書いてあったと記憶しています。そういう異端的な思想に理解があると取っつき易いかもです。この本でも、カインの末裔は特別な力を持った存在として現れます。アベルの子孫は土から作られて嫉妬深い神に屈従しているのに対し、カインの子孫は火から作られて真の知恵を持ち、自らが神のような創造力を有し、地下のマグマをも意のままに操ります。カインの子は、アベルの末裔の欺瞞を次第に暴いて行きます。

この世界の秩序や権力により弱者は犠牲になり、しばしば狡猾さは誠実さに勝利します。その中で真の知恵と気高さと美を象徴するうら若き女性として、シバの女王が現れます。彼女はネルヴァルの描く永遠の女性であり、何としても守られねばならない存在です。女王は果たして敵の謀略に落ちてしまうのか。聖書のストーリーが前情報であるだけに、え、本当にこうなるの!?と最後まで気の抜けない展開でした。

私としては本当に面白く読ませていただきました。でも多分少数派です。ここまでネルヴァルをわかってしまう訳者の中村真一郎ヤバいんじゃないかと思います。素晴らしい作品ですが、普通の人にはお勧めしません。意味不明で終わると思います。