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hanekakusiのブログ

『猫とかわうそ』http://hanekakusi.web.fc2.com製作日記です。読書の感想も書いています。

『身体はトラウマを記録する』

PTSDの権威によるPTSD研究の集大成みたいな本です。専門家向きですが、一般読者にもこれだけの内容のものが読めるようになっているのは素晴らしいことです。専門家でもここまでPTSDの事がわかっている人ばかりではないでしょう。ただ具体的事例が多いので、フラッシュバックには気をつけて読まれるといいと思います。虐待というのはどこの家庭にもごく普通にある事ですから、この本を必要とする人も多いでしょう。ここではPTSDの社会性がなくなったり無気力になったりというような周囲から理解されないつらい症状についても、脳科学から原因を説明してくれています。目からウロコです。

近年は抗精神病薬もいいものが沢山開発されていますし、おかげで多くの長期入院患者が自宅に帰れるようになりました。薬の恩恵はとても大きいものですが、あまりに薬物療法中心になり過ぎると、極端になると医師の役割はDSMの診断名に患者を当てはめて薬をだすだけになりかねないと著者は危惧します。病因が何であれ、薬を投与してしまえば患者は大人しくなり文句も言わなくなってしまいます。そうなると背景に虐待などがあっても解決されないままです。まあ、何か悲惨な体験でもしない限りふつう統合失調になんてならないですよ。抱えている過去の経験を清算できたら薬の量が減らせる人もいるかもしれません。トランキライザは副作用もありますからね。

この本では日本ではあまりまだ馴染みのない治療法が色々紹介されています。EMDRとか面白いですね。指の動きを患者に目で追わせるだけで回復してしまうとは・・俄かには信じ難いですが、エビデンスあるらしいですよ。こうした治療法の多くは分析のような言葉によるものでなく、身体や脳に働きかけるものです。確かに、暴力などつらい体験をして来た人にその体験を言葉で語らせるような苦痛の多い治療は酷なものです。そんな過酷な体験を重ねるよりも、体に心地よい感覚を与えたり、安心できる人間関係の中に身を置いたりする事の方が癒しに繋がるかもしれません。それに、言葉を使う治療はどうしてもインデリジェンスの高い人が有利になってしまいますが、そうでなければ環境のせいで教育を受けられなかったような人にも使えることでしょう。

私は無神論者ですし、絶対的な治療法があるとは信じていません。患者ごとに背景は異なりますし、違った解決法を探していかなくてはなりません。選択肢は多い方がいいですね。