hanekakusiのブログ

『猫とかわうそ』http://hanekakusi.web.fc2.com製作日記です。読書の感想も書いています。

『孤独の科学』

心理学者のカシオポ博士が研究成果をまとめた本です。人が孤独を感じる理由を科学的に検証しています。面白い本でした。

何故孤独を感じるか、その理由は人間は社会的動物であるという事に尽きます。数万年前の人類を見てみれば、孤立=死でした。みんなで洞窟の中で身を寄せ合っていなければ、生存は不可能でした。カシオポ博士によれば、ホッブズの言う万人の万人に対する戦いなんてものが原始的社会ではありません。人間は単体では弱い生き物なので、互恵的な社会性なくしては絶滅していたでしょう。

しかし現代社会では原始時代ほどの固い結束は失われました。クマに怯えて群居する必要もありません。それでも人間の脳の構造はあまり変わっていません。孤独感は脳の旧い層、大脳辺縁系が司っています。そのため人々は今も太古の時代と変わらず孤独感を抱くことになります。

孤独感は不安や危機感を募らせ、人を自己防衛的にさせます。慢性化すると攻撃的になったり自己破壊的な行動をとったりして、余計に孤立を招くという事態に陥りかねません。その悪循環を脱するには、自己防衛的になっている自分に気づき、人や社会に貢献する行動を取るように心掛けるのがいいそうです。

カシオポ博士はいい事言っていると思います。でも本当に愛情を剥奪されて来た人に、社会貢献を勧めてもなかなか難しいですね。人の抱える大抵の問題は、誰かの深い愛情と受容があれば解決するんではないかと思いますよ。しかし乳幼児期に受けられなかった同じ愛情を、オッサンになってから受け取る事はまず不可能です。難しい問題ですよ。とは言え、自己防衛的になっている人を見つけたら、困った人だと決めつける前に、この人は孤独なのかな、と思って見てみる事が出来れば違うでしょうね。

社会に貢献する事に関しては、注意が必要なことも書いてくれています。私の周りでも、本当に人間関係で不幸な目に遭ってきた人に限って、まったく人を疑う事を知らない場合があります。孤独を経験して来た人は、他人が自分を利用する事への感受性が鈍って、自分の利益を守る事が出来なくなるそうです。要は人から利用され放題になります。しかしこのような無分別な利他主義が社会的関係を豊かにする事はありません。寛大に人の助けになりながらも、搾取や虐待から自分を守る事が必要だそうです。これはいい指摘だと思いました。