hanekakusiのブログ

『猫とかわうそ』http://hanekakusi.web.fc2.com製作日記です。読書の感想も書いています。

ブロイラー/フロイト『ヒステリー研究』

フロイト最初の著作で、アンナ・Oをはじめとする有名な症例が報告されています。大まかに言えば、ヒステリー患者に症状の原因となった出来事を想起させて語らせれば症状が消える事を論じています。

しかし、読んでいてすぐに気付きます。最初の症例二人はあまり治っていないのでは・・・。ヒステリーの症状はまさに「ドラマチック」で、小説のように展開して行きます。しかも患者は良家の美しき社交界の花たちです。魅惑的なシチュエーションですね〜。何だか医者も取り込まれて、すっかり登場人物になっちゃってますね。ドラマの中の名探偵になった気分で楽しかったかもしれません。治らないのはわかる気がします。

アンナ・Oとエミーの二人は、催眠と暗示使って治療をしました。確かに催眠下で過去のトラウマを想起すれば症状の一つ一つはきれいに消えるんですが、休む間もなくまた次の症状に悩まされます。まさにイタチごっこです。読んでいても、全然問題の核心に迫らずに、表層をうろうろしつづけている感じでもどかしいです。これは患者が眠っていて能動性がなかった事が敗因と考えられます。現にフロイトはこの二人以外は催眠を用いず、覚醒した状態で想起させるようにして成果を上げました。

アンナ・Oは本名も今は判明していて、非常に有名な慈善活動家だったそうです。彼女はとても知的で魅力的な女性で、彼女を巡ってフロイトはブロイラーと確執を深めてしまいました。フロイトはヒステリーは性の問題が原因だと考えていました。ブロイラーも概ねそれを認めていましたが、性以外の原因もあると主張しました。とくにこのアンナ・Oの症例については、彼女は恋愛経験も全くない若い女性であり、性は関係ないとはっきり言い切っています。しかし私が読んだ印象ですが、アンナ・Oは後のエリーザベトの事例と同様、父親との癒着があったんじゃないかと思います。さらに悪いことに、熱心に往診を繰り返すブロイラーにアンナ・Oは父親投影をし、恋愛感情を抱いてしまいました。アンナ・Oは治癒したと本には書いてありますが、それはまったく事実の隠蔽で、実際は転移・逆転移の泥沼がブロイラーには手に負えなくなってサナトリウムに放り込んでしまったそうです。性の問題ではないとブロイラーが言ったのは、自己弁護でもあったような気がします。まあしかし、これはブロイラーの落ち度というよりも、当時はまだ安全な治療の枠組みが出来ていなかったんですね。