hanekakusiのブログ

『猫とかわうそ』http://hanekakusi.web.fc2.com製作日記です。読書の感想も書いています。

『シュメール神話集成』

約紀元前2000年にメソポタミアで書かれた神話を集めています。『ギルガメッシュ叙事詩』も大好きですし、私は個人的にこういうジャンルがツボです。こういう古くて素朴なのがいいんです。多分少数派ですが。

まずはシュメールの創世記があって、次に洪水伝説の話が入っています。洪水伝説は旧約聖書がいちばん有名で、他にも幾つかの神話で伝えられますが、これが私が読んだ中では恐らくいちばん素朴で、原型に近いのではないかと思います。これを読んで、全世界の洪水も、元は実際に起きたチグリス・ユーフラテス川の氾濫の話なのかもしれないと思いました。

興味深い話は他にも色々ですが『イナンナの冥界下り』について少し書こうと思います。これは、天の女神が冥界も手に入れようと地底に下りて行く話です。イナンナは失敗し死に囚われ、彼女が地上に戻るためには別の人を身代りにしなくてはならなくなります。そして地上に戻った女神は夫の牧神ドゥムジが自分の死を嘆いていないのを知り、彼を身代りに差し出します。大体そういう話で、確かエリアーデはこの話を、死を克服し不死になる事に失敗した物語と説明していたと思います。私もアッカド語版の『イシュタルの冥界下り』を以前読んだ時にはその説がぴったり来ていましたが、今回読んだシュメール語版のテキスト(こちらの方が古い)はちょっと違った解釈が出来るんです。シュメール語版では、死を宣告されたドゥムジは姉の葡萄の神に助けを求めます。その結果、ドゥムジと姉が交代で一年の半分ずつ死ぬ事になるという結末を迎えます。何だかギリシャデメテル・コレー神話を思い出しますね。

他に気になったのは、牧神ドゥムジと農耕神エンキムドゥが女神イナンナを巡って争う物語です。ドゥムジとの結婚を勧められたイナンナは、それを嫌がってどうしてもエンキムドゥがいいと言います。ショックを受けたドゥムジは、結婚したらバターもミルクもあげるよとイナンナを懸命に口説きます。それが功を奏してイナンナはドゥムジを選び、エンキムドゥも自分の農地に家畜を放つ事をドゥムジに許します。農耕神に対する牧神の勝利で幕を閉じるわけです。しかしもしかするとこの話は、アベルとカインの話に似ているかもしれません。どういう訳かカインは神から拒まれて、この場合は嫉妬のためにアベルは殺されます。しかしアベルがもし農耕神だとしたら、オシリスディオニュソスのように殺されて然るべきなのかもしれません。家畜というのは農作物を食べるものですからね。

今回はマニアックな話になりました。このくらいでもうやめておきます。