hanekakusiのブログ

『猫とかわうそ』http://hanekakusi.web.fc2.com製作日記です。読書の感想も書いています。

トリストラム・シャンディ

本題からちょっと外れますが、武雄市の図書館で貸出件数の少ない蔵書が処分されてしまったそうで、中には貴重な古書も含まれていたとか。残念で仕方ありません。

私は『メルモス』を最初図書館で借りて読みましたが、それまで下巻の最後まで読まれた形跡は全くありませんでした。今回読んだ『トリストラム・シャンディ』もそうです。間違いなく武雄市ではゴミです。寂しい限りです。

『トリストラム・シャンディ』の作者スターンも、マチューリンと同じく国教会の牧師です。時代は少し前になります。国教会の牧師と言えば他に『ガリバー旅行記』もあります。すごい顔ぶれです。

この作品に関しては、本を読んでて初めてのことですが、この作者は本当にアホなんじゃなかろうかと思いました。とくに実りのあることは何も書いてません。しょうもない冗談と言葉遊びと下ネタだけです。いいのか、牧師なのに。こういう前例があればマチューリンもさぞ、やりやすかったことでしょう。それに中に書かれている説教がかなり過激。一見異端思想です。これについては当時も批判の的になったようですが。

この作品に当時の人は抱腹絶倒したようですが、現代日本人がこれを読んでウケるかというと少々難しいです。ベルグソンいわく、笑いは常識との微妙なズレにより生じるそうで、我々の住む世界とはちょっとズレが大きすぎるのかもしれません。(『ドン・キホーテ』や『痴愚神礼讃』もゲラゲラ笑えないと思います)

しかし気になるのは、漱石がこの作品が好きだったことです。それは何故かと考えてみると、以前読んだ(確か十返舎一九か誰かの)江戸の滑稽本に文章がよく似ている気がします。ふざけてばっかりで下ネタ満載のところとかそっくりです。木版なのでページの使い方が自由な所も近いです。

私が『トリストラム・シャンディ』で好きだったのは、「書くことは生きることと同じ」というくだりです。こういう作家は好きです。それに、心優しい博愛主義者であるトリストラムの叔父さん(でも軍事マニア)はとても微笑ましかったです。軍人だった作者の父親を重ねていたのかもしれません。叔父さんは文字通り「虫も殺さない」人で、蝿を捕まえたら逃がしながら「私たち両方が生きられる余地がこの世界にはあるはずだ」と語りかけます。叔父さんはユダヤ人や黒人に対しても平等意識を持っています。その毎日の日課といえば、自分の土地に再現した戦場で、召使いと二人で包囲戦ごっこをすること。日本でも人気のある、ウッドハウスの登場人物を彷彿とします。