hanekakusiのブログ

『猫とかわうそ』http://hanekakusi.web.fc2.com製作日記です。読書の感想も書いています。

シュトルム『みずうみ』

幼い日の美しい恋の思い出を老人が回想する物語です。プロットとしてはよくあるものではあります。愛を誓い合った二人がいて、男が何らかの理由で遠く離れている間に、女は心変わりはしていないものの(多くは経済的な理由から)親に強いられて別の男と結婚してしまいます。この物語を、単純に美しく切ない恋物語として読むのもいいと思います。しかし、私はちょっと引っかかる所があります。例によってかなりぶっ飛んだ解釈かもしれませんが。

私は高橋義孝訳で読みましたが、この話で「母親」という言葉が出て来た時に、それがラインハルトの母親かエリザベート母親か見分けが付きづらいんです。訳の関係でわかりにくくなっているの可能性もありますが。もし双方の母親が奇妙に融合しているとしたら、ラインハルトとエリザベートは兄妹になってしまう。元より許されぬ恋ですね。この母親は、二人が愛し合っていることを知りながら敢えて引き離します。それでして不可解なことに、彼女はエリザベートの夫と一緒に出かけてしまい、ラインハルトとエリザベートが二人きりになる機会を与えます。

彼ら二人を隔てるみずうみとは何なのでしょう。エリザベートを象徴すると思われる白い孤独な睡蓮の花に近づこうとすると、ぬらぬらと気持ちの悪い茎がラインハルトの足元に絡み付いて叶いません。二人を隔てるのは、この不気味な茎と言っていいのですが、これは恐らくエリザベートの夫を表してはいないでしょう。エリザベートは夫に「卑屈なまでに従順」とありますが、夫に従順である以前に彼女は母親に従順であるように思われます。ラインハルトがエリザベートに思いを伝えると、突然「死」という言葉が出現します。二人の愛の行き着く先にはそれしかないかのように。そしてラインハルトは、永遠に愛する人の元を離れます。そうすることで、暗いみずうみから逃れたかのようにも私には思えてきます。