hanekakusiのブログ

『猫とかわうそ』http://hanekakusi.web.fc2.com製作日記です。読書の感想も書いています。

『伝奇集』

完成した『バベルの図書館』の訳を読んでもらったのですが、意外な事にやや不評でした。どうも、すらすら読めすぎて物足りなかったそうです。前回私は自分の読んだ翻訳が誤訳だらけだと書きましたが、友人はこれはもしかしたら「シュールな訳」なのではないかと言い始めました。(ボルヘスの意図したものかはわかりませんが)何か作品に不思議な魅力を添えているようです。そう言われてみると、私にもだんだん名訳に思えて来ました。

ボルヘスの文体は、私は海外の作家ではいちばんくらいに好きです。とにかく明晰で、死のように透き通っています。それに何と言っても男らしい。私の訳にはこの男らしさは明らかに足りないですね。私にとってはボルヘスヘミングウェイより男性的です。『キリマンジャロの雪』なんて、死に際くらいごちゃごちゃ言わずに潔く逝けと思いましたもん。

『伝奇集』はどの話も好きです。果てしない無限と刹那的な死、一見相矛盾するふたつが、透明な世界で重なり合っている感じです。読まなきゃ損する本の一つですよ。それから、ボルヘスは本当に本が好きなのだな、というのが読んでいて伝わって来ました。思い浮かんだのはやはりウンベルト・エーコですね。エーコはかなりボルヘスの影響を受けていますね。相当好きだったんですね。『薔薇の名前』ではボルヘスが本に毒塗ってましたし、『フーコーの振り子』は『死とコンパス』そのものじゃないかとも思いました。エーコも愛書家で有名でしたね。蔵書が三万冊あったそうで、私の四千五百冊なんて全然大したことないですよね。もっといいカワウソになれるよう頑張ります。