hanekakusiのブログ

『猫とかわうそ』http://hanekakusi.web.fc2.com製作日記です。読書の感想も書いています。

ヘロドトス『歴史』

ペルシャの王キュロス、カンビュセス、ダレイオス、クセルクセスの4代を軸とする歴史書で、とくにペルシャ戦争の記述がメインになっています。後世の本で引用されて見覚えのあるエピソードが沢山出てきます。

私の感想としては、何と言ってもキュロス大王がかっこよかったという事に尽きます。そのせいで一巻で死んだ後やる気がなくなって、読了に随分時間が掛かりました。私はダレイオスなんて王とは認めませんが、クセルクセスは良かったですね。波が荒れたからってヘレスポントス海峡を鞭打たせたり(烙印も押したかったけど流石に無理だったようです)かと思えばその数ページ後では人間の命の儚さを思って涙したり、いい王様っぷりですね。ペルシャ軍は数百万いたらしいですけど(絶対盛ってる。四国の人口より多いし)ヘロドトスも、それだけの軍勢を率いるに足る者は容姿の端麗さと堂々たる体躯からしてもクセルクセス以外にはなかったと讃えています。アテナイというのは言わずと知れた民主主義国家で、自由な国が独裁国家に打ち勝ったという話が現代でも美談として語られます。しかし私も決して王党派ではございませんが、やっぱり王様ってかっこいいですね。そりゃあアテナイは勝ちましたよ。だけどアテナイにはクセルクセスもレオニダスもいないじゃないですか。

『歴史』に一貫するテーマは驕慢(ヒュブリス)への諌めです。私はペルシャ贔屓でずっと応援していましたが、やっぱりサラミスの海戦負けましたね。残念です。でも、戦う前から勝ち目ないのは私でもわかりますよ。気付こうよ。だってペルシャは内陸で海ないんだし、海洋国家相手に海戦で勝てるわけがない。同じ事は赤壁の戦い元寇についても多分言えます。曹丕なんて船酔いしてるし。最初からやっちゃいけない戦いですよね。でもやっちゃうのが性なんですかね。しかし読んでて全般的に思った事ですが、戦術荒すぎ。『三国志』とは大違い。本当にこの世界なら孔明一人で天下取れたんじゃないですか。八卦の陣なんてありませんよ。

ヘロドトスの記述は史実に正確でないと後世に批判されてきました。ともかくデルフォイ神託は絶対に外れないですしね。リディアのクロイソスなんて可哀想に、ペルシャを攻めれば大国を滅ぼせると神託を受けて戦争を始めたもののキュロスに敗北してしまいます。滅びる大国は自分の国だったんですね。なんじゃそら。私はヘロドトスに史実との完全一致は求めません。でも私の好きなところは、神の奇跡だのいかがわしい説であれ、どうしてそれを信じるか思考の道筋を書いてくれている事です。人間には真理を知る事は不可能ですから、彼のこの考える道筋こそ大切なんじゃないかという気が私はします。