『ジョゼットおなべのなかにパパをさがす』
不条理劇で有名なイヨネスコの絵本です。
ジョゼットのママは、ゆっくりするために実家に帰っています。パパはママが居ないので羽根を伸ばしすぎて、暴飲暴食で具合が悪くなっています。今はジョゼットの相手はしていられません。パパはバスルームにこもってしまいます。ジョゼットが構ってもらいたがると、パパは言います。「パパはもうここにはいないよ。向こうへ行って探してごらん。テーブルの下は見たかい。戸棚の中にも、お鍋の中にもいなかったかい、オーブンの中に鳥と一緒にいなかったかい」
ジョゼットは一生懸命パパを探しますが、当然何処にも見つかりません。面白いやり取りではあるのですが、しかし小さな子どもにとって、親がいなくなる事ほど怖い事はないのではないでしょうか。子どもは大人に依存しないと生きられないからです。実際この話でパパのいなかったのは短時間だったので問題ないですが、場合によってはとても残酷な事かもしれません。昔、ウーピー・ゴールドバーグ主演の映画『コリーナ・コリーナ』で、父親が妻が死んだと言い出せずに「バスルームにいる」と言ってしまい、娘が急いで探しに行くもののそこに母親の姿はない、というシーンがありました。一歩間違えれば悲劇です。
でも、ここではそんな悲劇は起こりません。やがてヒゲを剃り終えて、パパは出てきます。「ここにいるよ」そしてジョゼットを抱き上げます。ママもそのまま出奔してしまう事もなく普通に帰って来ます。こうしてジョゼットは永遠にパパとママから締め出され、ネバーネバーランドへ行ってしまう事もありませんでした。パパもママもほんの少しだけ彼らの事情で役目を外れただけ、また元の家族に戻ります。ジョゼットは幸せな子どもですね。